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福岡高等裁判所 昭和57年(ラ)30号 決定

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は「原決定中相手方らに対し訴訟救助を付与する部分を取消す。相手方らの訴訟救助の申立をいずれも却下する。」との裁判を求め、その抗告の理由は、要するに、相手方らはいずれも相当の収入ないし資産のあるものであつて決して無資力とはいえないものであり、また、「勝訴の見込なきに非ざるとき」の要件を欠いているのに、これらを看過して相手方らに対し訴訟救助の付与をなした原決定は取消を免れないというものである。

よつて、先ず、本件申立の適否について判断する。原決定は、損害賠償請求訴訟事件の原告の地位にある相手方らに対し、訴訟救助の付与をなしたものである。ところで、訴訟救助付与の決定は、右付与を受けた当事者につき、国に対する関係で裁判費用の支払を猶予される効力を生ずるに過ぎないものであつて、後述の訴訟費用の担保を要求しうる場合を除き、その相手方当事者に対し攻撃防禦方法の提出など訴訟追行について実質上の不利益を及ぼすものではない(原告の印紙不貼用を理由に訴却下を求める被告の利益は国が原告の納付すべき裁判費用の支払を猶予する措置をとらないことから生ずる単なる反射的利益に過ぎない)から、右相手方当事者は訴訟救助付与の決定に対し抗告によつて保護を求むべき利益を有するものではない。ただ、民事訴訟法一〇七条・一〇九条により、被告が訴訟費用につき担保供与を申立て応訴を拒む権利を有する場合においては、原告が訴訟救助を付与されれば訴訟費用の担保供与義務をも免れる(同法一二〇条三号)結果、被告としては応訴を強いられるという直接の不利益を被ることとなるから、かかる場合に限り、抗告により保護を求むべき利益を有するものと解すべきである。

そうすると、本件は被告が訴訟費用につき担保供与を申立て応訴を拒むことのできる場合に当らないことは明らかであるから、抗告人は相手方らに対し訴訟救助を付与した原決定につき抗告を申立てるべき利益を有しないものというべく、本件抗告は不適法として却下を免れない。

よつて、本件抗告を却下することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法九五条・八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(蓑田速夫 金澤英一 吉村俊一)

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